先日初めて‘コウノメソッド卒業患者さん’が誕生しました。短期間ながら色々と学ぶところがあったため、経過を振り返ってみます。

 他院から転院となった80歳台の女性。3年前から近所の人に性格変化を指摘されるほど物の言い方がきつく、攻撃的な言動が目立つようになる。2年前には孫の顔がわからなくなり、通販で健康食品や補整下着などの高額な買い物をするなど浪費が目立つように。そして昨年10月下旬に突然外出したまま帰宅せず、一山越えた場所で警察に発見され総合病院に救急搬送されました。創傷治療が一段落したところで、介護環境を整える目的で当院に転院となったのです。

 診察時は愛想がよく協力的、歩行はスムーズで歯車様固縮なし。長谷川式は14点、遅延再生0/6、野菜の繰り返しあり、時計の数字が逆回転。アルツハイマースコア5点(迷子・遅延再生・繰り返し・時計の全体偏位・逆回転)ピックスコア3点(委縮の左右差、ピック切痕)、レビースコア2点(日中の嗜眠・幻視)スコアだけを見るとアルツハイマーになりますし、態度もにこやかで一見礼節が保たれていますが、家族の話では自分の味方だと思うと愛想がいいが自分に批判的だと思うと突然豹変するとのこと。また山を一つ越えるという行動の激しさはアルツハイマーの近所の慣れた道で迷うというイメージとは異なり、浪費のエピソードと共にピック的。CT所見もそれを裏付けます。ミニLPCと診断しました。

 いずれにせよ、この方で最も大切なのは陽性症状のコントロール。ウィンタミン計8mg(4mgを朝夕)を先に開始し、状態が落ち着いていることを確認した上で1週間後にリバスタッチパッチ4.5mgを追加しました。(リバスタッチパッチには弱興奮作用があるため)パッチ開始後にやや落ち着かない感じとなり、最終的にはウィンタミン18mg(6mgを食後3回)で退院し、施設入所となりました。入院中はフェルガード100Mも併用していましたが、退院と同時に家族の希望で中止となっています。

 問題は退院後です。退院後3週間の外来で、紹介状に「2回も施設を抜け出して施設近辺で発見された」と書いてあり、青ざめました。そのためでしょう、施設ではウィンタミンが計37.5mg(12.5mg錠剤を食後3回)まで増量され、数日後に傾眠・ふらつきが出現。ウィンタミンを25mgまで減らすも食事が取れないほどの傾眠とのことで、処方の調整を目的に私の外来を受診されました。数日前から、施設医師によってリバスタッチパッチがドネペジル塩酸塩5mgに変更されていました。

 まずは陽性症状が制御できない状態で退院としてしまったことをお詫びした上で、紹介状のお返事で次のようにお願いしました。

1つ目は、ドネペジル塩酸塩5mgはレビーに対して歩行障害出現、ピック病に対して前頭葉ストレッサーとして働くリスクが高いため、中核症状改善薬はリバスタッチパッチ、もしくはレミニールを使って頂きたいこと。

2つ目は、施設で家庭天秤法を適応して頂けないかとのお願いです。眠気・ふらつきを起こさず、かつ穏やかでいられる至適量は、現場で本人を見ているスタッフや医師にしかわかりません。大人数を預かる施設ではそのような対応は難しいのかな…と思いながらも、せめて数日単位でもよいので調整して頂けないかお願いしたところ、ご家族の話ではそのように対応して頂けたようです。結果的にはウィンタミン18mg(6mg包毎食後)で落ち着きを取り戻し、その後は出て行くこともなくなった(施設という環境に慣れたというのも一因だと思います)とのことで、私もひとまず安堵しました。中核症状改善薬については施設ではレミニールなら処方可能とのことで、途中からレミニール4mgに変更されました。ナウゼリンを先行させたため、心配していた嘔気も出現していないと施設の看護師さんより報告がありました。

 そして先日、ご本人と家族が外来を受診されました。穏やかに笑顔を見せ、かつ自分の足でしっかり診察室に入ってくる姿を見て、本当にホッとしました。施設では毎日‘スタッフの作業のお手伝い’をしているとご本人がお話してくれました。家族の方も納得されたため、処方は施設担当医にお願いすることとなり、当院通院は一度終了となりました。(当院通院は、処方が『老人保健施設の他科受診』に該当してしまい、本人の経済的負担が大きくなってしまうため)

 このケースでの反省と教訓です。施設入所を控え、入院中にリバスタッチパッチの導入をしてその様子を見守りたいという気持ちがあったせいか、パッチ導入が早すぎたのかもしれません。フェルガード100Mが入所時から中止になっていたことも一因?本人にとっては当院入院から施設入所という環境の変化がストレスとなり、余計に落ち着かなくなってしまった可能性があります。ウィンタミンのみで退院とし、外来でリバスタッチパッチ導入した方が施設にご迷惑をかけずにすんだのでしょうか。

そして今回改めて、抑制薬を適宜調整する『家庭天秤法』の素晴らしさを実感しました。素晴らしいと言うより、それなしで抑制薬を処方する恐ろしさを知ったと言うべきか。施設でウィンタミン量をどんどん上げていき、傾眠やふらつきが出て食事を食べられなくなった段階で、もしウィンタミンがそのまま継続されていたら…と考えると、背筋が寒くなります。いわゆる『暴れていた患者さんが、静かになると同時に寝たきりになった』という事態になっていたことでしょう。柔軟に対応して下さった施設の先生や現場のスタッフの方々に心から感謝します。

 写真は、院内で調剤してもらったウィンタミン4mg包です。‘吹けば飛ぶ量’と河野先生がおっしゃるほどわずかな量ですが、この薬の効果は偉大。処方した翌月の外来での家族の笑顔を見ると、マジカルパウダーと呼びたくなります。