先日『大型家電メーカーであるヤマダ電機が、シニア層を対象に御用聞きサービスを展開する方針』というニュースを目にしました。若年層を中心に家電のインターネット購入が広まっている時代に、お店でお客さんを待っていても客足は伸びない。それならば積極的に地域に出ていこうという姿勢は面白いな…と思って見ていました。そこでふと思ったのです。これって医療も同じでは?

もの忘れ外来を始めて1年半。産休があり実質は1年間。目の前の認知症患者さんと向き合い、必死に診療をしてきました。そろそろこれまでの自分の足跡を振り返ってみようと思い、これまで診てきた方のカルテを見直したところ、新たな事実が判明。それは、もの忘れ外来の診察を受けた患者さんのうち、現在も通院を続けている方は、半分弱という事実です。6-7割は通院されているかな…と思っていた自分には、なかなか衝撃的な事実でした。

1回もしくは数回で通院を中断されてしまった方の理由は、こんな所でしょうか。

1)「物忘れが心配」という訴えで受診したものの、診察の結果は治療の必要がなかった。

2)遠方から来ており近隣のかかりつけ医の先生に紹介をした。

3)施設に入所して通院できなくなったり亡くなられた。

4)治療の効果があまり感じられずやめた。

5)遠方で通うのが大変で断念した。

6)本人が受診を拒否して通院できなくなった。

4)だとすれば私自身に突き付けられる大きな課題ですが、それ以外に6)の本人が受診を嫌がる、というのも大きな問題です。

もの忘れ外来予約のお電話を頂いた時に「本人が行きたがらないので行けるかわかりません。」というコメントを時々見ます。やむを得ず当日ドタキャンも。今より少しでもよくなってほしいというご家族の切実な心境を考えると胸がつまる思いがします。これが認知症診療の難しさで、病識(自分は病気であるという認識)が乏しいため、外来受診を渋ったり拒否したりすることが少なからずあるのです。本当に治療の助けを必要としている家族は、目の前の過酷な暮らしに追いまくられて精神的にも身体的にも余裕がなく、必要な情報(もの忘れ外来や介護保険の存在さえ)が届かないことさえあるという現実。また初回は息子さんや娘さんの助けを借りて、だましだまし病院に連れてきて診察を終えたとしても、2回目3回目は本人が拒否して断念ということも多いのです。抱っこして連れて行けるような小さなお子さんと違い、力もある大の大人を無理に病院に連れて行くというのは、現実的には非常に困難。(配偶者も高齢であるとなおさらのこと)

来ないものは治療しようがない、最終的には本人と家族の問題。本当にそれでいいのか?必要な人のところに必要な治療を届けるという地域医療の責任を、どうやって果たせばよいのか…最近はそんなことを一生懸命考えていました。

そこでヒントになったのが、上記のヤマダ電機のニュースです。

「来てくれないなら、行っちゃえばいいのでは?」

幸い当院は日頃から訪問診療を行っており、体制は整っています。一般的には訪問診療の対象は寝たきり状態などで通院が困難な方。でも、見方を変えれば認知症で治療を拒否している方だって「通院が困難な方」と言えます。何回か自宅を訪問し、飲み始めた薬が効いたり信頼関係が構築されれば、受診してもいいよ、という気持ちになってくれるかもしれません。

そんなことを頭の中で考えている時に、ちょうどよいケースが。70歳台前半のお若い女性。もの忘れ外来の予約が入っていたのに、診察室に入ってきたのは夫のみだったのです。話を聞くと、1年前から忘れっぽくなり、今日あったことも忘れるように。そしてやたらと怒りっぽくなったとも。夫が遠方に住む娘さんに相談して娘さんが受診を勧めたところ「娘に余計なことを言ったのか!」「人を馬鹿にして!」「精神病院にでも入れるつもりなんでしょ!!」と激しく怒ったと言います。外来予約日も、何とか当院の駐車場までは連れてきたものの、怒った本人が帰ってしまいご主人だけの診察となったという訳です。

早速外来で夫と相談し、訪問診療を試してみることにしました。今日がその訪問日でした。白衣も聴診器も車に置いて、ご主人との打ち合わせ通り、

「町の福祉関係の者です。70歳以上の方がいる家庭を訪問し、生活にお困りのことがないかお話を聞いています。」(インチキ商法の手口のようですが、目的が正当なためお許しを)

と挨拶をしました。「ちょっとピリピリしています。」などとご主人が事前に耳打ちしたために身構えていたお邪魔した割には、笑顔で迎えて下さいました。その後も和やかに話が進み、

「ところでもの忘れなどはないですか?今なら簡単なチェックリストで確認できますが。」

と長谷川式をやるところまで成功。無理ならあきらめよう、と思って来ただけに大きな収穫です。長谷川式の結果は30点満点で16点と、年齢にしては大きく低下を認めました。時計の絵もうまく描けず。ご本人もこの結果を受けて

「忘れちゃうわね~。病院でCTを受けた方がいいのかしら?」

と検査に前向きな発言を。ここぞとばかりに

「今はいいお薬もあるので、これ以上忘れてしまわないように是非かかってみるといいですよ。」

とお勧めしておきました。

まだまだうまく行くかはわかりません。明日になったらコロッと忘れて病院になんていかないと言うかもしれません。でも少なくても今日顔を見て診察をしたので、薬を処方することは出来ます。穏やかになる薬をそっと飲んでもらい家族の負担を取ることはできます。受診がまだ難しければ何回か根気よく訪問して、受診してよいと本人が言うところまで自宅での治療を続けてみます。他にも適応となる方がいればトライしてみます。試行錯誤する中で、効果的なやり方が見えてくるかもしれません。

大切なことは考えてばかりでなく、とにかく動いてみること。患者さんがいる場所が診察室という気持ちで、地域に飛び出してみようと思います。こんなやり方はどうだろう、こうやったらうまく行った、というアイディアがあれば、ぜひ教えて下さい。

写真は私が最近受けたパーソナルカラー分析で撮った写真です。本人の顔がよく映える色を分析した結果、私はウィンタータイプでした。

カラー分析