先日かかりつけの80歳台女性が、娘さんと共に外来を訪れました。

37.4度と微熱があるようで、利用している施設のスタッフに

「熱があるようですから、熱さましをもらってきて下さい。」

と言われたので来院したと言うのです。よく話を聞くと1週間前には咳や痰がらみなどの症状があったものの、現在は既にピークを過ぎており、食事も普通にできている。ご本人としては辛くないと。

「う~ん…。」

どう説明すればいいか考え、思わず唸ってしまいました。インフルエンザの流行で熱に対して敏感になっているのはわかりますが、心配のピントが少々ずれています。

 かぜの時に熱が上がるのは、一種の防衛反応だと言われています。ウィルスが体内で増えるとと、体がそれ以上ウィルスを増殖させないよう体温中枢のセットポイントに働きかけ、高い温度になるよう設定します。高熱の状態は、人にとって不愉快であると同様ウィルスや細菌にとっても活動しにくい状態。また熱が上がることで免疫も活性化すると言われています。

 解熱剤で熱を下げると言うことは、人が心地よい状態になると同時にウィルスにとっても活動しやすい状態になるため、トータルで見るとかえって治りが遅くなる可能性があります。また熱が出ることは感染の結果であって原因ではないため、解熱剤で熱を下げたからと言って病気が治ったと言う訳でもありません。根本的な治療ではないため、一時的に熱が下がっても、薬の効き目が切れる6-8時間後にはまた熱がジワジワと上がってくることになります。

 それでは解熱剤が全く無意味で出さない方がいいかと言うと、そうとも言いきれません。38度以上の高熱のために、ぐったりして食事も水分も取れないという状態になり、脱水でますます調子が悪くなることもあります。そのような場合に解熱剤を飲むことで一時的であれ体が楽になり、水分をしっかり取ることが出来れば、脱水を防ぐことは期待できます。つまり解熱薬は、症状を一時的に緩和する『対症療法』であることをわかって頂き、必要な時には適切に使って頂きたいのです。

 先日の患者さんのケースでは、37度台の微熱であり、本人も元気で食事も水分も取れているのですから、「熱があるから解熱剤を飲む」という必要はありません。むしろ不必要に病院に足を運ぶことで、インフルエンザなど余計なお土産をもらって帰ることもあるから、マイナスだという見方もできます。

 ご家族には上記の内容を簡単に説明して理解頂いたのですが、施設のスタッフへの説明をどうするか正直少し悩み、相談の上‘お守り代わりに’ カロナール(アセトアミノフェン)頓用2回分を処方してしまいました。(へたれですみません)「要らないものは要らない!」と突っぱねて筋を通すのも一つかと思いますが、医者と介護職員の間に立った患者さんや家族が困ってしまうのも気の毒かな…と思ってしまい。ただ医学的に正しい知識は、小児や高齢者と日常的に接する職業の人にとって必要です。何らかの方法で伝えなくては同じことのくり返しになってしまいます。よくある病気についての基本的な考え方は、口で説明するだけではなくプリントなどにまとめて渡し、普段接する方にも読んで頂く、というのがいいかもしれません。近いうちにアクションを起こします。

カロナール