「少し熱があって咳が出ます。自分では大したことないと思うんですが、職場でインフルエンザじゃないか調べてもらうよう言われたので来ました。」

インフルエンザ流行シーズンには、こんな理由で外来を訪れる方が少なくありません。

検査がプラス(+)ならインフルエンザ、マイナス(-)ならインフルエンザではない、そんな風に白黒つけられると思うのは自然な考え方ですが、実はそうではないのです。現状のインフルエンザ検査は、皆さんが思うほど万能な検査ではありません。(検査に携わっている方、ごめんなさい)

少し専門的な話になりますが、インフルエンザ迅速検査(鼻の穴に綿棒のようなものを入れられグリグリされ涙が出そうな検査)は、感度60%、特異度98%です。感度というのは「その病気にかかっている方の中で検査がプラスになる人の割合」つまり検査の敏感さ、特異度というのは「検査がプラスと出た方の中で本当にその病気にかかっている人の割合」つまり検査の信頼性と説明されます。ですから感度60%と言うことは、「インフルエンザの患者さん10人に検査をしてみたら、6人で検査がプラスになりますよ。」ということです。裏を返せば10人のうち4人の患者さんは、インフルエンザにかかっているにも関わらず検査がマイナス(-)になってしまいます。

またインフルエンザは、発症して半日ほど経過しないうちは、ウィルス量が十分ではないので偽陰性(本当はインフルエンザにかかっているのに検査が(-)と出てしまう)になる可能性があります。熱がグングン上がっていくので慌てて病院に直行するのは、検査のタイミングとしては早すぎると言えます。(人情としてはよくわかりますが…)

上のようなインフルエンザ検査の落とし穴にはまると、インフルエンザ(+)というお墨付きを求めて、数日間の間に高熱の方が何度も何度も病院を訪れることになります。その結果、患者さん本人がしんどいのに加えて、インフルエンザらしい(けどまだ診断されていない)患者さんが院内にたくさん…。血圧の薬をもらいに病院を訪れた患者さんにインフルエンザが感染するなど、病院がインフルエンザを媒介する温床となってしまうのです。

それでも検査があるとなれば検査したい、その結果を知りたいと思うのが人の常。医者も患者さんも。落とし穴だらけの悩ましい検査なら、いっそ存在しない方がいいのでは、とさえ思う今日この頃。『インフルエンザらしさチェックリスト』を全家庭に配布し、それらしき症状(高熱や頭痛・関節痛、インフルエンザらしい人との接触)がある人は皆‘インフルエンザらしい人’として1週間学校や仕事を休む、希望すれば自宅に薬を届けるというのはどうでしょうか?高熱の人が何度も何度も病院を受診するより、よほどインフルエンザの流行を抑えられるのではないかと思うのですが。

その実現は難しいとしても、検査の結果に振り回され過ぎないことは大切です。つまり検査が陰性でも、それらしい症状があればやっきになってインフルエンザ検査(+)という称号を得ようとせずに仕事や学校を休む。職場もむやみやたらと検査結果を要求しないで休むことを許容する。そんな体制が整えばと思います。

そしてインフルエンザだからと言って絶対に抗ウィルス薬を飲まないといけない、と思っている方がいますが、そうでもありません。

白状すると、これまでの私もインフルエンザ陽性となると

「ウィルスの増殖を抑えるお薬を出していいですか?」

と流れ作業的に薬を処方することが多かったのです。言い訳ですが、38℃を超える成人の患者さんは、毛布をかぶって体を丸めるように椅子に座り目も虚ろ、とにかく全身から辛さが伝わってきます。(私も昨年罹患して、辛さは体験済み)「長いこと説明していないでさっさと帰して…」という余裕のない様相なので、ついつい説明を最小限にしてしまいます。そこはその場の状況に応じて臨機応変に。

症状がそこまで重篤でなくて余裕がある若めの患者さんや、家族が代わりに説明を聞く余裕がある方、薬の副作用を心配される方(どんな薬も副作用がゼロと言うことはありません。)、仕事や学業に大急ぎで復帰する必要に迫られていない方に対し

「インフルエンザは通常の抵抗力を持つ方では薬を飲まなくても自然に治ります。抗ウィルス薬を使うと、発熱の期間を約1日短縮できると言われています。」

という説明を加えたらどうでしょうか?1日早く熱が下がることを「こんなつらい思いは一日でも早く終わらせたい…」「一日でも早く仕事に復帰しなくては困る!」と大きなメリットと取る方がいる一方で、中には「たった一日しか変わらないの?それなら飲まなくても…」と判断される方もいるかもしれません。

ついでにもう一つ、麻黄湯(まおうとう)などの漢方薬を飲んだ場合にも抗ウィルス薬を飲んだのと同等の症状緩和効果(熱が出ている期間を短縮する効果)が得られるという報告があるようです。(漢方薬については私はまだまだ不勉強ですが大きな可能性を感じており、これからしっかり勉強してみようと考えています。)

症状があって受診した際でも悪くはありませんが、理想的には、高熱が出て頭がもうろうとしている時ではなく冷静な判断能力がある元気な時にこのような情報を得て理解しておく方がスムーズですよね。医療者が診察室で症状を抱えてこられた方だけにアプローチするのではなく、今元気な地域の方にもしっかりと情報発信することの必要性を感じます。

写真は先日帰宅した時に私が見た、残念すぎるお雛様。わが家では、働きの悪い殿方は打ち首になるようです。

お雛様