ご無沙汰しています。白土です。

先日子供の遠足で、日立海浜公園に行ってきました。内心日に焼けるな~…と思いながら行ったのですが、子供がお友達と仲良く遊んでいる姿をまじかで見られたのが嬉しかったのと、観覧車の一番上からの眺めが素敵でした。

観覧車の上から

さて、今回は変なタイトルをつけてみましたが、今日は2人連れだって外来を受診されたケースについてです。2人一緒に物忘れ外来を受診というのはうんと珍しいことではありません。最も多いケースはご夫婦ですが、友人どうし、上司と部下という組み合わせも経験があります。本当に2人とも自分の症状を心配して受診することもありますが、意外と多いのは渋る相手を連れ出しやすくする口実として一緒に受診するパターン。認知症ではしばしば病識がありませんから、自分一人だけが病気ではないかと疑いをかけられると気分を害して受診したがらないこともあるのです。

自然と2人受診の場合には、頭の中で「どっちがメインなのだろう」という目で見てしまう私。基本的に診察は別々に行うので、その時にもう一方の方の症状を詳しくお聞きします。

「夫がなかなか行くと言ってくれないものですから、私も物忘れが心配だから一緒に行って欲しいと言って何とか連れ出したんです…。」

と打ち明けられれば確定的。中には

「俺が忘れる忘れるって俺のことばっかり言うけれど、奥さんだって忘れることはある!」

とここぞとばかりに反撃する方もいますが、そこは全体としてどちらに理があるかはある程度わかりやすいことが多いのですが…。

先日一緒に受診されたのは、お付き合いされている男女でした。男性Aさんが、女性Bさんを心配して物忘れ外来に誘ったのだと言います。

男性Aさんの言い分)

女性Bさんは、ここ1年くらい同じ話の繰り返しが多い。喜怒哀楽が激しくヒステリックな傾向がある。Bさんは自分に5-6人くらい付き合っている女性がいると思い込んでいて、そのことを責め立ててくる。

うんうん、嫉妬妄想ですね、さすがにそのお年で5-6人というのは現実的じゃないしね…と納得。カルテも作成したので形上Aさんも診察をしましたが、長谷川式スケールという記憶力テストは30点中なんと30点満点でした。(私、今の年でも満点をとれる自信はありません…)

Aさんに頭部CTを撮りに行って頂いている間に、女性Bさんにお話を聞きます。

女性Bさんの言い分)

「もうこんな年だし、Aさんに他にお相手がいるなら別にそれはそれでいいんです。でも嫌なのは、嘘をつかれること。そしてそれを指摘されると怒ることです。」

こんな風に言いながら、Bさんは一枚の紙を見せてくれました。Aさんから送られてきたメールの文面をそのままプリントアウトしたものです。

『やいこの女郎め。生きたか死んだか返事くらいしろ。』

『さっきの文面は送るつもりがなかったけれど、業者さんが来て慌ててスイッチを切ろうとしたら間違って送信してしまいました。すみませんでした。このあほんだら。オオっとこのセリフはバッチャンのセリフだったな!このにゃろめが気をつけろよ。早く返事だせっちゅうのこの馬鹿が何をモタモタしているんだろうね。本当にのろまなんだから。

ユーモアがなくて残念。』

………。

単純に女性が認知症にかかってお付き合いしている男性に嫉妬妄想を抱いている、とい

う仮定がここに来て大きく揺らぎ始めました。男女の仲のことだし、気性が激しい人だったらこのくらいの書き方はあるよ、と判断されるでしょうか?男性Aさんの文章に常軌を逸した攻撃性というか、ただならぬものを感じるのは、私だけ? そんな目でAさんの頭部CTを見ると、前頭葉の萎縮が少し目立つのです。

もう一度先入観なくBさんの話を聞いてみよう、と話を聞くと、男性Aさんが目の色を変えて激しく怒ることに恐怖を感じる、との言葉。スイッチ易怒…という言葉がフッと頭に浮かんでしまいました。5-6人の女性とお付き合いがあるなんて常識的にはあり得ない…と思っていましたが、前頭側頭型変性症(ピック病)の所見の一つに、「性的亢進」という症状があります。ちなみに女性の長谷川式は25点。頭部CTでは頭頂葉に萎縮を認めました。

Aさんの言うことが真実ならばBさんの行動はおかしい、Bさんの言うことを信じるのならAさんの行動には問題がある。はたして真実はどちらに??

その場ではもはやどう判断すればよいのかわからず、次回外来に結果説明を持ち越してしまいました。‘裏を取る’ことが必要だと考えたからです。つまりAさんでもBさんでもない第三者に、それぞれ日頃の2人の様子を聞いて違和感がないかを確認しなくては、どちらがどうとも断定できません。

このケースは私に、改めて認知症診断の難しさを教えてくれました。誰が見てもわかるほどの進行した症状は別として、認知症は初期であればあるほど診断が難しいです。長谷川式という記憶テストで高得点をとる認知症の方もいますし、頭部CTの脳萎縮は参考にはなっても絶対的なものではありません。接した時に「ずいぶん怒りっぽい人だな」と思っても、家族に聞くと「昔からこんな感じです」と言うことも。初期であればあるほど、ごく身近な人が捉える「以前と違う」という性格変化やエピソードが診断のよりどころになるのです。そのごく身近な人が認知症だったら…。核家族が進む中での認知症爆発時代。心してかからなくてはなりません。