理想の世界が垣間見えて嬉しかった出来事をご紹介します。

90歳近いお年の女性。今年2月に初めてケアマネージャーさんに連れられて外来を訪れました。1年前から物忘れ症状あり。2月にデイサービスを開始したところ、午後3時頃から「家に帰るんだ」「こんな所でのんびりしている時間はないんだ。連れてってくれよ。」と落ち着かなくなるとのことでした。一度スイッチが入ると顔面は紅潮し、ゼイゼイと息切れするほどの焦燥感。スタッフへの声かけも頻回で声も大きく、他の利用者さんもうんざりしているとのことでした。

初診時の長谷川式は3点。歯車様固縮や体幹傾斜はなく、消極的にアルツハイマー型かな…と診断しました。

初回は昼と夕にグラマリールを1錠ずつ処方しましたが、帰宅願望は改善せず。暴言も出てきて途中からウィンタミンに切り替え、飲む量・タイミングを、家族の方や施設スタッフの方と相談しながらああでもないこうでもないと工夫してきました。なかなかスカッと改善とはいかず、定期診察日以外にスタッフからSOSコールがあって電話で飲み方の変更を指示したこともありました。

そして先日、ケアマネージャーさんから一通のお手紙が届きました。

「○○様についてご報告致します。去る6月×日、グループホームに入所されました。

最近こちらの施設では、ウィンタミン(6mg)3包ずつを昼と夕に内服して安定し、怒ったり焦燥感がだいぶ薄らいでいました。宿泊時にはグラマリールで6時間程度も眠れるようになっていたのです。(飲んだ日の翌日午前中は眠剤が残っているようなのでウィンタミンは昼1包にしています)

ほぼ毎日デイサービスをご利用され、どうにかお送りまで過ごして頂いた方がいなくなり、当施設もちょっと寂しく、静かになりました。」

そして次の施設の担当者にも経過をお伝えしておきます、今後ともよろしくお願いしますと結んでありました。

施設からの手紙

私はなんて素晴らしいのだろうと、胸がジンと熱くなりました。利用者さんが自施設を去るこのタイミングで主治医に手紙を書くことは、病診連携的には必須ではありません。それなのにわざわざ手紙を下さったという丁寧さにまず感激。症状に困った時にSOSのお手紙を頂くことはよくありますが、お蔭でよくなりました!というご報告は、せっぱつまっていないので何かのついでに口頭で頂くことが多いのです。口頭でも十分!嬉しいですが、手紙で頂くと喜びもひとしお。何回も読み返してしまいました。

このケアマネージャーさんは、私のコウノメソッドのレクチャーを聴いて下さって以来、たびたび対応が難しい患者さんをもの忘れ外来受診につなげて下さっています。また今回この方を良い状態を導いた処方は、最終的には施設スタッフの皆さんが探し当てたもの、つまり現場の観察力の勝利です。翌日効きすぎた時には抑制薬を減らすなど、家庭天秤法をきちんとマスターしていることが分かります。

大変だった方がいなくなったことを「ちょっと寂しくなった」なんて表現されている所に彼女の優しさを感じます。こんな優しいスタッフに囲まれていたからこそ薬の効果が十分に発揮されたのだな、と実感。(実はコウノメソッドを理解し現場で実践を試みている施設は他にもありますが、それはまた別のお話で。)患者さんと接する時間が短く頭でっかちになりがちな私と違い、現場は24時間のガチンコ勝負。そこに信頼できる看護師や介護スタッフがいてくれることに心から感謝です。これからも、どんどん地域のコメディカルスタッフと連携をとり、認知症患者さんにとってよい環境を提供できればと願っています。

新井さん、本当にどうもありがとう。これからもよろしくお願いします。