マンガ『ヘルプマン!! 介護蘇生編』の表紙

ヘルプマン

脳卒中後遺症や認知症などの基礎疾患により口から食事を摂るのが難しくなると、主治医との面談が設けられ、

「胃瘻を造りますか?」

という話をされます。胃瘻について通り一遍の説明はあるものの、胃瘻のいの字も聞いたことがなかったご家族にとっては十分な説明とは言えません。胃瘻とはどのような造りになっているのか、手術はどんな風に行われるのか、術後の栄養スケジュールについてなどの説明は、

『はたしてうちのお父さんに胃瘻を造った方がよいのか?』

という疑問に対する答えにはならないから。しかしその問いこそが、家族の価値観に関わる本質的な問題なんですよね。おまけに医者は(私も含め)そんな重要なな問いを家族の方にポーンと投げかけておきながら、しれっと

「急いでここで結論を出す必要はありませんが、来週前半までに答えを頂ければ…。」

などと言うのです。

ここでは面談で頭が真っ白になってしまったご家族が、家族としての答えを導き出すための視点をご紹介します。

〇胃瘻にまつわる数字から

胃瘻になった場合、口から再び食べられるようになる確率  6.5%   ( H23年 認知症患者の胃ろうガイドラインより )

口から十分な栄養を摂れなくなった場合の平均余命

胃瘻を造った場合  2~3年

胃瘻を造らず末梢点滴(手からの点滴)のみ 2~3ヶ月

〇胃瘻を造る意義とは

「医療のことは全くわからないんで先生が決めて下さい。作った方がいいんでしょうか?」

とすがるような目で聞かれ、困ってしまうことが時々あります。

「こればかりは価値観の問題なので、どちらが正解とか不正解ということはありません。ご家族が考え抜かれてたどり着いた結論が正解だと思います。」

まずはこのように伝えます。

その上で、あくまで一個人の意見として、次のようにお話することがあります。

胃瘻を作ることは、作らなければ数か月でお別れとなる方に、年単位の時間が追加される行為です。胃瘻を造るかどうかの判断は、すなわち「延長した命に、どのような意義があるのか」に置き換えて考えられます。

★本人の意志は?

ひと昔前までは、口から食べられないことが、すなわちその方の寿命を意味していました。そのような意味では、胃瘻を造ることは延命治療の一つと捉える風潮があります。本人が元気だった頃に、延命治療について何かコメントしていましたか?もし本人がかつて明らかに反対の意を示されていた時には、本人の意向を尊重するようお話します。(たとえ正式な文書などがなかったとしても。)

★最期の時間は誰のもの?

本人の人生は本人のものに決まっているだろ!と言われるかもしれませんが、そうとも言い切れないような。たとえば「もし自分が同じ立場だったら、胃瘻を造ってもらいたいか?」という問いに対してNoと答える一方で、自分の親には胃瘻を造ってでも生きていてもらいたい。矛盾しているようだけれど、本音としてはわかります。だとすれば、胃瘻によって延長された時間は「残された家族のための時間」とも取れませんか?

コミュニケーションが取れない状況の方に胃瘻を造るのは、もしかすると家族のエゴなのかもしれない、という自省は必要かもしれません。家族がそれを承知の上で「でも生きていてもらいたい」と切実に願った場合、私は切り捨てられません。依頼されれば胃瘻を造ります。ただ家族のエゴで長生きしてもらうからこそ、贈られた時間が少しでも穏やかで優しいものであるよう、家族には気持ちの上でしっかり寄り添ってもらいたい。それが胃瘻を選択した家族の責任ではないかと思います。

最近の胃瘻反対の流れは、本人の意思・自立性を重んじる観点から来ていますが、これはどちらかと言うと欧米的な考えです。一方祖父母の世代においては、村の共同体意識を重んじ個を強く打ち出さないという価値観もまだまだ残っています。

大井玄医師は著書『「痴呆老人」は何を見ているか』の中で、日本人が延命を行う背景に『自分たちの「仲間」を見捨てないというつながり意識の尊重がある』とし『死にゆく者を引きとめようとする周囲の力、つながり強さの現れ』であるとも表現しています。私自身はこの箇所を読んで、これまでのモヤモヤがいくらか軽減した気がします。自己主張できなければ存在が無とみなされる欧米に対し、日本古来の価値観では「ただそこにいる」ことも肯定される優しさがあるのかも、と。

〇胃瘻という希望

ヘルプマンでは、最後に嚥下リハビリなどの働きかけにより、胃瘻を造った後でも経口摂取を再開できるという希望を提示しています。胃瘻を「時間稼ぎ」として使う方法です。口から食事が食べられない状況が続くと、栄養状態が悪化し筋力も低下、週単位で体全体が衰弱していきます。胃瘻を造って胃瘻栄養を開始すれば、とりあえずはその衰弱にストップをかけられます。栄養状態を整え、時間をかけて嚥下リハビリに取り組むことが出来るのです。問題は、胃瘻を造った時点で「もう口から食べる必要がなくなった」とリハビリも終了となり、口から食べることをあきらめてしまいがちなこと。ここからもう一頑張りする前向きな姿勢が必要なのですね。

またコウノメソッドでも、薬の内服さえ難しかった方に胃瘻を作ることで、定期的に薬やサプリメント(ニューフェルガードLAには嚥下機能改善効果があると言われています)が投与され、嚥下機能が改善されるというやはり「改善へのステップとしての胃ろう」という選択肢を提示しています。

当院でも、胃瘻を造ったからには上の2つの希望を大きく育てていけるように尽力します。