こんにちは。すっかりご無沙汰している間に、秋の気配が漂うようになっていました。

認知症に携わる方の本やお話の中で、時々「あれ?」と違和感を覚えることがあります。患者さん本人や家族に寄り添い熱心に働く介護関係の方や在宅の医師が、認知症の薬をきっぱりと否定する発言をした時など。例えばPTであり生活に根差したリハビリを提唱されている三好春樹氏の本の中で、こんな記載があります。

『‘痴呆に効く薬’なんてものが効いたなんてことは、私たちの実感では一度としてないのである。もちろん、投与をきっかけに問題行動がなくなっていったケースもあるが、いずれも介護がよかったケースであり、おそらく薬の投与がなくても改善していったろうと思っている。』(『教師はなぜぼけるのか』より抜粋)

え~~~。薬を投与して、その後問題行動がなくなったのでしょう?もちろん三好先生だから良い介護をされていることは間違いないと思いますがが、素直に読めば、薬も一定の効果を果たしたと考えてもいいのでは??薬の投与がなくても改善していくのなら、最初から薬を投与する必要がないのだから…。(ふだん処方する側の人間なので、余計にそう思ってしまう。)私は三好春樹先生を尊敬しています。骨太な物の見方、人間観から多くのことを学ばせて頂いていますし、繰り返し本を読んでいるからこそ、どうしても引っかかってしまうことを取り上げさせて頂きました。

上記の記述だけを切り取って提示するのはフェアではありません。この記載のタイトルは『‘ホパテ’の責任は誰が取るべきか?』。専門医が提唱し、マスコミがもてはやして広く使われるようになった新薬で薬害が発生した場合、それは誰の責任か?と論じている内容です。三好先生のすごい所は、医者やマスコミのみならず‘介護をしている私たち’の責任にも言及している所だと思います。つまり「私たちは医療の専門家ではないから何にもわかりません。専門科にお任せします。」という態度ではダメで、そういった薬が現場の生活を破壊していないかしっかりと見極め、破壊している場合にはきちんと声をあげて本人を守らなくてはいけない、という主旨です。

こうしてまとめてみると、改めてその通りだと思います。三好先生がこんなメッセージを発さざるを得なかったということ自体、いかにこれまで誤った薬剤治療が本人の生活の質を落としてきた例を数多く見てきたかを示している。アンチテーゼなのでしょう。しかしながら、コウノメソッドを実践している現場の医者としてはやはり「全部が全部そうではないのに…」と言いたくなってしまいます。

ここで本日のタイトルに立ち返ります。二項対立とは‘医療と介護’の対立を指します。医者が薬剤治療を論じる際に、その方の置かれている生活環境やケアの質に一切触れず「そんなものは改善に関係ない」という態度を決め込むこと、介護関係者が「認知症患者の問題行動は適切なケアですべて解決できる」と断言して、薬を使うことをさも非人道的なことのように扱うこと。これらは二項対立のありがちな図式と言えます。でも、認知症患者さんやご家族の実態を知れば知るほど、あたりまえの結論に至ります。それは「どっちも同じくらい大切だよね。」ということ。ものすごくあたりまえなのに、案外お互いがお互いの存在を無視しているように見えるとすれば、それはとても不可解なこと。

認知症の治療が「改善を目指すベクトル」、ケアが「老いを穏やかに受け入れるベクトル」だと少々乱暴に仮定すれば、一人一人の患者さん(便宜上こう呼ばせて頂きます)の中に両方のベクトルがあった方がよいと思います。何もかも老いのせいにして、薬でたやすく改善する症状を我慢する必要はないし、一方で何もかもを病気の症状に仕立て上げてやっきになって叩く必要もない。(例えば幻視だって、「おばあちゃんが、可愛い子供のお客さんがいるって笑顔でお茶出してます。」と言われれば、家族と相談した上でそのまんまにしていることもあります。)どこまでなら治る余地があるのか、どのあたりから受け入れる方向にいくか、その問いはいつも白黒はっきりつくものではないしケースバイケースで模索するしかない。でもまずは2つのベクトルを意識する所がスタート地点なのだと思っています。

最近よき介護関係者との出会いに恵まれてまくっている私ですが、コウノメソッドを知った介護スタッフが、そんな方法もあるなんて目から鱗!と思ってくれたら嬉しいし、私も辛抱強く適切なケアを模索する介護スタッフの姿に日々多くのことを教わっているので、余計にそう感じます。

ちなみに今本をひっくり返して気がつきましたが、上の記載があった三好先生の本は、1990年初版でした。当時はコウノメソッドが世に出回っていない時代ですから、上記記述は当然なのかもしれません。(時の経過を全く感じさせない三好先生の視点が改めてすごいです。)三好先生がコウノメソッドを知ったら何とコメントされるのか、非常に気になります。そして昨年出版された『認知症の「真実」』という本で、奇しくも前半に河野先生、後半に三好先生が取り上げられています。

認知症の真実

本当の意味での治療のプロと介護のプロ、両方の技がお一人の生活に生かされれば、最強!ということで、個人的にお二人の対談を見てみたい、と願うのでした。