こんにちは。

先日は病院の歓送迎会がありました。夕方に張り切って会場である料亭に向かい、「二階でございます。」と案内され、思慮深い私は一応女将さんに確認したのです。

私「市立病院の予約で間違いないですよね?」

女将さん「市立病院?」

私 「え、こちらの料亭じゃないですか?」(実は場所の記憶があやふやだった私)

女将さん「いいえ。市立病院さんは…明日予約を頂いております。」

…ということで、一日間違えて会場入りした私。翌日には楽しく宴を楽しんだのでした。

さて、今日は、11月23日のX dayを控えて、中核薬の増量について自分の経験を振り返ってみることにします。『中核薬増量規定の問題』という言葉は私もたまに使ってしまいますが、言葉として難しいですよね。よく分からない言葉に更に分かりにくい言葉が乗っかって、聞いている人の頭の中にクエスチョンマーク??がいっぱいになりそうです。

つい最近私が経験した例を挙げてみます。

80歳の男性。現役時代はインテリジェンスが高い堅い仕事についており、性格は几帳面でまじめ、かつ穏やかで優しい性格だそうです。

昨年末に奥様が亡くなり、娘さんと同居することとなったのですが、その娘さんに連れられて外来を受診しました。

・娘さんがお父さんの洋服を片付けようとしたところ(事前に本人の許可を得たにも関わらず)すごい形相で怒鳴り、3週間口を利いてくれなかった。

・間違いを認めない。1週間本人が言い続けたことについて、後から「そんなことは言っていない」と言い張る。銀行に行ったこと事態を忘れる。

・物がなくなったことを「誰かが盗った」と言う。

インテリジェンスが高い方だということもあり、長谷川式は30点満点の30点です。そんな高得点にも関わらず、娘さんから見て、これまで知っていたお父さんとの落差が大き過ぎて、衝撃を受けたと言います。長谷川式を盲信してはいけない良い例だと思います。頭部CTでは前頭葉の沈み込み、頭頂葉の溝が深いように見えました。海馬萎縮は1+です。

FTLD

萎縮は頭頂葉の方が目立ちますが、症状からFTLD(前頭側頭型変性症)と診断しました。穏やかで優しかった方が些細なことで形相が変わるほど怒鳴ったというエピソードを重視したのです。まずはウィンタミンの処方(4mgを朝夕1包ずつ)を開始。フェルガード100Mも同時に開始しています。1週間後には娘さんから「ずいぶん落ち着いて生活できるようになりました。」と喜ばれました。

そして1ヶ月後に、だいぶ落ち着いたから大丈夫であろうと、中核症状改善薬(中核薬)であるリバスタッチパッチ4.5mgを追加しました。娘さんには、もし不安だったら半分に切って1/2枚から開始してもいいですよ、とお伝えしておきました。

次の外来で教えて頂いたのですが、リバスタッチパッチを貼り始めて2日目に、口調がきつくなる、表情が険しくなるなどの変化があったようです。「僕は知らない」「僕はそんなことは言わない」と言い張るなど、娘さんから見て「治療を始める前の状態に戻ってしまった?」かのような変化だったようで。元々几帳面な性格ではありましたが、時計を見ながら1分単位で生活時間を管理しているとのことで、‘常同’だからやはりピック病なのだな…と思いました。

娘さんは私とのやり取りもあって一時的にパッチを貼るのを休んだり半分で貼って様子を見たり、と工夫して経過を見ましたが、数日で自然と落ち着き、1枚のまま貼り続けることになったようです。

娘さんは、「薬がこんなに効くのかとびっくりした。」と驚いていました。娘さんに心配な思いをさせてしまったことを申し訳なく思いましたが、肝心の本人はと言うと

「調子がいいんです!動くのがおっくうでなくなったと言うか…。」

といたってご機嫌。活動性がアップしたのは娘さんも認めるところで、以前は「動悸が…」と心臓の症状を訴えて活気がなかったのが、現在はそのような訴えがなくなり、足取りが軽いのだとか。歩き方もバタバタ、ドアもバタンと勢いよく閉めるのだそうです(笑)

この話を聞いて、しみじみ症状と言うのは裏表なのだな…と思いました。脳が賦活されてエネルギーが増すということが、ある方面から見れば望ましいいい事、別の方面から見れば心配だったり困ったりする事として映る。単純に〇とか×と判定できないことが現場には沢山あります。

ただはっきりしているのは、『これ以上は慌てて増やさない方がよい』ということです。パッチを貼り始めて数日間でそれなりに陽性症状は落ち着いたようですが、今の状態がギリギリかな、と感じます。これがマニュアルに従って、4.5mg→9mg→13.5m…と機械的に増量していったら、どうなるでしょう?そうした場合にこの方の家庭に起こることを考えると、私は怖くなります。薬なんて使わなかった方がましだった、という大後悔パターンにはまることが容易に想像できるからです。娘さんにも当面はパッチは今の量でいくし、もし家族から見て困る…という状況になった場合にはパッチを減らすかウィンタミンを増量するなどして対応しましょう、とお話しました。

せっかく効果が期待できる薬、適切に使って最大限によい効果を引き出したいと改めて思ったのでした。