数か月前から、私の中で熱くスイッチが入ったもの。それは、漢方!

以前から何となく気になっていましたが、どこから手をつければいいのか分からず…。漢方の勉強会なども開かれている長野県の清水慎介先生に勉強法をお聞きしたところ、お勧めして下さった本の中に井齊先生の本がありました。

医師免許が西洋医学と中医学の2つに分かれている中国や台湾と違い、日本では医師免許を持っていれば、保険収載されている漢方薬も処方することができます。これは考え方によってはとても幸運なこと。

ただ、漢方に詳しい先生によれば、日本の医療において漢方薬はその価値を過少評価され、不当に扱われているようです。日本で漢方で普及していかない理由の一つは、傷寒論に代表される漢方の理論が武道のような‘道’として西洋医学に馴染んだ医師の前に横たわっているため、というのが井齊先生の考え方です。‘部外者がうかつに踏み込めない領域’としてハードルが高くなってしまっている、と言うのです。それではあまりにも勿体ない、西洋医学の視点から漢方を分析し、日常の医学の中で漢方をどんどん活用していこう、というのが‘サイエンス漢方’という考え方です。

早速井齊先生の本を読み、心から面白い!と胸がときめきました。理論が非常にシンプル明快で、わかりやすい。そして明日の外来からでもすぐに実践できる実用性に満ちています。これまでの自分が患者さんに対して「やむを得ない」「打つべき手がない」と考え患者さんや家族にもそのように説明してきた症状は、漢方ではことごとく‘打つべき手’があったみたいです。現場で使える武器が増えて、臨床能力が大幅にパワーアップしそうな予感。勉強しながらワクワクして楽しいこの感覚、なんだか懐かしい…と思ったら、そう、コウノメソッドに出会って勉強し始めた時とそっくりでした。

サイエンス漢方

早速臨床で漢方を使ってみた私のビギナーズラック2連発をご紹介。

1)補中益気湯で体力が回復

80歳台男性。10年前に胃癌で胃摘出の手術を受けた後からすっかり体が弱くなり、しばしば近隣の開業医の先生にお願いして、点滴を受けていた方です。(外来で行える範囲で体力がつく点滴…はないので、点滴には脱水を補正する効果しかありません。そういう物にすがらざるを得ないほど自覚的にしんどかったと言うことなのでしょう。)

たまたま尿路感染で当院に入院するというご縁があり、これまでの経過をお聞きして‘体力がつく漢方’として補中益気湯の内服を提案してみました。

すると1ヶ月後の外来で、ご夫婦の笑顔を見ることが出来ました。本人いわく「食欲が出て、今までの5倍くらい食べられる!」と言うのです。5倍はすごい…。今はもう内服開始から3ヶ月ほどたっていますが、体重も3kg増えたのだそうです。外来を受診する度に、この方の奥さんが、「先生は博士号です、博士号!!」と手を合わせて拝んで下さるのです。博士号をもらう以上に誇らしい気持ちを味わわせてもらい、井齊先生に大感謝です。

2)裏技?!温湿布で肛門の違和感が改善

肛門部のヒリヒリとした違和感に悩まされている81歳女性。肛門科で診察を受け痔核は指摘されたようです。一般的に処方される軟膏ではあまり改善せず、本人希望のワセリンでそれなりに落ち着いていたのが、今回また症状が悪化した、ということで受診されました。

ヒリヒリするということは、何らかの炎症があることが予想されます。痔に対して効果があるという温湿布の存在を思い出し、試して頂くことにしました。芍薬甘草湯2包をお湯に溶いて電子レンジで軽くチンし、そこにガーゼを浸します。そのガーゼを肛門の腫れている部分にあてて15分。

私自身今回初めて試すので、自信なげに数回分だけお渡ししましたが、1週間もたたないうちにご本人が再び外来に。全く効かなかった?と心配しましたが、

「まだ数日しか使っていないんですけれど、すごくいい感じなんです!もっと出して欲しくて来ました。」

どちらかと言うと感情を表に出さない冷静な方ですが、明らかに声が弾んでいます。

「こんなに良くなるなんて!」

と紅潮した表情で笑顔を見せる女性のお顔を見ながら、「漢方ってすごい…!」と私も興奮してしまいました。飲んでよし、貼ってよしです。

漢方を使うにあたって、本当に学問としての理論習得が不要なのか?それについて、今の私はまだ論じることさえも出来ないレベルにいます。ただ一つ言えることは、シンプルな理論であるサイエンス漢方に出会えたからこそ、私は漢方を臨床に取り入れ始めた、という事実だけ。そして右も左もわからない状態ながら処方をして、現場ですごく喜ばれた、という素敵なおまけも。これが理論から説いてくれる教科書をじっくり読んで、ある程度マスターしたという自信がついてから…となると、いつ頃同じ経験を出来たかと言うと正直疑問です。早い段階で「漢方はやっぱり難解!」と挫折して、そのままになっていた可能性が大です。

実はサイエンス漢方をきっかけに漢方に興味を持った私、他の先生が書かれた漢方の本も数冊購入して読んでみた、のですが…。ここだけの話、読み物として書かれた本を読んで、何だか上がりかけていたテンションがすっかり落ち込んでしまいました。本場で中医学を極めた先生が、漢方なら西洋医学で治らない神経難病疾患も治すことが出来る!という内容だったのです。その先生の実力と漢方のポテンシャルはその通りなのだと思うのですが、「この本を読んだ私に、今日から何ができるの??」という一点がサイエンス漢方との決定的な違いでした。今から中医学を学びに中国に留学する、というのは現実的ではないし、その先生が日本でそれを教えてくれる勉強会や書籍を紹介している訳でもない。西洋医医学一辺倒の日本の体制を批判しっぱなしで代案の提示がないのです。私のクリニックに来れば、その素晴らしい治療を受けられますよ、と言われても…。一人の町医者として学んだことを一刻も早く患者さんに還元したい私には、ただただストレスがたまったというのが正直なところで、余計にサイエンス漢方の素晴らしさを実感しました。どんなに素晴らしい手法でも、現場で広く使われてナンボ!広く使われるためにシンプル化し、現場に惜しみなく情報提供して下さっているところに、井齊先生と河野先生との共通点があります。

この先、漢方が面白い!ということでのめりこんで、‘道’としての漢方医学に足を踏み入れることは可能性としてはありますが、それがなくても今すぐに使えるよ~と手を振って招き入れて下さった井齊先生に、心から感謝しています。