複雑な気持ちで書いています。

70歳台半ばの女性。平成24年春頃から、足がもつれてよく転ぶようになりました。物忘れ、幻視、妄想も出現。1年後の平成25年春に近くの心療内科を受診し、うつ病と診断。ミルナシプラン(SNRI)15mg, スルピリド100mg, タスモリン(抗コリン薬)1mgが処方されたところ、歩行が著しく悪化し、トイレにもおぶって連れて行く状態になりました。主治医に報告したところ、診断が『アルツハイマー型+パーキンソン病』に変わるも、処方は変更されず。2ヶ月後にレミニール8mgが追加処方されるも改善がありませんでした。

平成25年10月に、初めて私の外来を受診しました。もの忘れ外来を始めて1ヶ月の若葉マークの私の元に、なんとお隣りの県(コウノメソッド実践医が不在です)から2時間かけて連れてきたと言うのですから、家族はまさに藁にもすがる思いだったのでしょう。

瞼が半分くらい閉じて眠そうで暗いムード。体は傾いており、歯車様固縮もあります。長谷川式は9点、レビースコア13点、ピックスコア3点、アルツスコア0点、頭部CTで脳の萎縮は目立ちません。レビー小体型認知症と診断し、リバスタッチパッチ4.5mg, メネシット(100mg)半錠、二コリン注射、そしてフェルガード100Mをお勧めして帰宅しました。

遠方でそうそう来られないということで1ヶ月後の11月。この方は小刻みながら自分で歩いて診察室に入ってきました。先日の眠そうな表情が嘘のように、笑顔です!驚きました。ご家族いわく、以前は昼間もほとんど寝ていたのに、最近は起きていることが多く、声が出るようになったとのこと。その翌月には、自分から部屋の片づけをするまでに改善しました。まだ少し眠そうなことがあるとのことで、サアミオンを追加しました。

H26年1月、地元の開業医の先生(内科)に紹介状を書き、ダメ元で二コリン注射をお願いしたところ、受けて下さることになりました。週1回の二コリン注射を開始。

3月には足がつっかかって転ぶとのこと。ぺルマックスを追加してみましたが、こちらは合わなかったようでかえって調子が悪いとのことで中止。

5月にグルタチオン注射を開始してみました。600mgでは変化なく、800mgに増量したところ、翌日朝に自分から「朝だよ!」と娘さんを起こしたのだそうです。この方はその後も明らかにグルタチオン点滴が効いていて、点滴を打つと2-3日は覚醒・歩行レベルが上がり、娘さんが疲れている様子だと、「肩もんであげようか?」と言うのだそうです。これは続けるしかありません。再び開業医の先生にお手紙を書いて、地元でグルタチオン点滴を続けられる体制が整いました。

グルタチオン

今年の10月で私の所に通い始めて2年になりました。一度は歩けなくなった方が、何とか自力歩行を続けての2年は素晴らしいです。遠い所をよく頑張って通って下さっていますね、と感謝の気持ちを伝えたのが先月。

ここまでなら文句なしのハッピーエンドですが、それでは終わらず。グルタチオンの点滴をした後は何としても歩きたくなるらしく、家族が目を離した隙に一人で歩いて転ぶのが心配、とカルテに書いていました。

先日、恐れていることが現実になりました。前回受診からそれほどたたないうちに、一人で留守番をしている時に転んでしまったよう。夫が外出して戻ると廊下で横になっていのだとか。

「それ以来、起き上がれないんです…。トイレにも行けずオムツなんです…。床ずれも出来ているんです。食事量も減っているし、近くの内科の先生の所にも連れて行けないので点滴もできず、認知症も進んだ気がします…。」

オムツの時に痛がる素振りがあるとのことで、大腿骨骨折の可能性が高いと考えレントゲンを撮ったところ、やはり大腿骨頚部骨折が疑われます。

転倒が疑われるエピソードから1ヶ月弱が経過しており、手術の適応があるのかはわかりませんが、やはり一度は整形外科の先生と方針を相談してもらおうということで、地元の整形外科医に紹介状をお書きしました。このままだと寝たきりでどんどん弱っていってしまうのが目に見えているからです。

これまで他の方でも、グルタチオンの点滴を始めて嬉しい思いをすると同時に、ヒヤッとすることはありました。歩けなかった方が、曲がりなりにも歩けるようになる。家族も嬉しいし、何よりご本人も嬉しいのです。歩ける!と思って歩こうとするのです。転ばないように注意してね、と伝えるのですが、それを覚えていられないのが病気です。ご家族にもそれぞれに生活がありますから、24時間誰かが見守っていてね、というのも限界があります。

下手に歩かせるからこんなことになるんだよ、なんて野暮なことを言うつもりはありません。もしグルタチオンの力がなければ、もっと早くに寝たきりの状態になっていた可能性が高いと思います。それでもやはり、残念で、悔しくて、何とかならなかったかな~と考えてしまう。グルタチオン点滴を行う患者さん、ご家族はお気をつけ下さい。

苦い気持ちを抱えながらも、前に進むしかありません。今はNさんが戻ってくるのを待っています。絶対にまた歩けるようになると信じています。