こんにちは。いよいよ今週末に東京でセミナーです。楽しみです。

いまさらですが、昨年の10月15日に、現代書林さんから『認知症医療は論より証拠』という本が発刊されました。

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コウノメソッドを紹介する本で、実践医のインタビューも掲載されています。私も人生初の書籍インタビューを受けるという光栄な経験をさせて頂きました。一般の方向けに易しく書かれた本ですので、コウノメソッドに興味をお持ちの方はぜひ読んでみて下さい。

年明け早々、まさにこのタイトル通り…と実感する出来事がありました。

7月にケアハウスに入所された70歳後半の女性。夜になると頻繁に「息子がいなくなった!」「夫と息子を関西に置いてきた。」と落ち着かなくなってしまいました。関西から茨城に移ってこられた方なので、「自分の居場所はここではない」という想いが強かったのかもしれません。

ご家族が困って、9月中旬に当院の外来を直接受診されました。前医でアリセプト10mgが処方されていたので、アリセプトは興奮性があり妄想などの陽性症状を悪化させてしまう可能性があるため中止するよう指示し、抑制薬であるグラマリールを1日3回で処方しました。その後血液検査でビタミンB1も欠乏していることが判明し、アリナミンの内服も追加。

10月上旬の本格的な診察では、長谷川式8点、時計も描けず、アルツハイマースコア5点、ピックスコア1点、レビースコア2点で、陽性症状が強いアルツハイマー型認知症+ビタミンB1欠乏と診断しました。

1ヶ月半が経過した10月下旬には、非常に落ち着きよい状態となりました。

施設の方が外来に持参してくれる宿直者報告を読んでみるとその差は一目瞭然。受診前の記録によると、1ヶ月半で9回夜間に出て行こうとして止められた記録があります。実際に‘弟を探しに’外に出て行ってしまい、警察に保護されたこともあります。

それが受診1ヶ月後の記録では、連日のように「部屋の灯りが消えていて、お休みのようでした。」「部屋の灯りはついていましたが、鍵がかかって静かでした。」あまりにも平和すぎて、同じ方の記録とは思えないほどの変わりようです。日中は一人で歩いて図書館に行き、夜もゆっくり休めるようになっていたのです。

うん、いい感じ…と思っていたのですが、その後なぜか外来通院が途絶えていました。家族の話では、12月中旬にそれまでのケアハウスから某施設に移ったそうです。そこで系列病院の医師に処方権限が移され、興奮症状のために中止していたはずのアリセプト5mgが再び処方されてしまいます。当院に来る前の興奮状態が再燃したのは当然と言っていいでしょう。そこで興奮状態を抑えるために抑制薬がしっかりと処方され、最後の1週間は抑制薬の使い過ぎで意識が朦朧として、系列病院に入院。点滴を受けることになりました。

つい先日の1月下旬。最後の受診から3ヶ月がたって再び本人とご家族が外来に現れました。一連の経過に「このままでは死んでしまう…」と危機感を抱いたご家族の選択は、その施設を出ること、当院に通院して認知症診療を再開することでした。

せっかく落ち着いてきていた状態から、ゼロどころかマイナスになってしまった残念さがある一方で、息子さんの思い切った決断によってぎりぎりの所でつながった…という安堵の気持ちも。現在徘徊と暴言が問題となっているこの方に、仕切り直しで処方を開始しました。

この方の状態悪化は、一般的な‘認知症のまちがい診療’に共通する問題を含んでいます。

・アリセプトは興奮性の薬なのに、「認知症がある」というだけで陽性症状(落ち着かなかったり妄想がある)の患者に処方してしまう。

・アリセプトによって悪化させた興奮状態を、別の抑制薬でもって抑え込もうとする。薬で悪くなった症状は、薬をやめるのが王道です)

・強い興奮状態だからと言って抑制薬を多量に出して出しっぱなしにすると、過沈静となり食事が摂れなくなったり歩けなくなる。

・過沈静になるのが怖くて抑制薬を全く使わずに頑張ろうとすると、徘徊や暴言で家族や施設スタッフが疲れきってしまう。

上記のことを、息子さんだけでなく、同席されたグループホームの方にもしっかり説明しました。他の利用者さんが同じような状況に立たされた時に、思い出して生かしてほしいという想いを込めて。

残念ながら、どの問題ももの忘れ外来に来られる方の以前の診療内容を聞くと「よくあること」です。コウノメソッドには、上の問題一つ一つに対する‘解決法’がちゃんとあります。論より証拠です。証拠とは、もちろん元気になった患者さんとご家族の笑顔です。