昨年の12月中旬、水戸のグループホームしゃらくの仲田さんと初めてお会いしました。初めてお話した時から意気投合し、間もなく認知症のある利用者さんを当院に引っ張ってきてくださいました。新しい患者さん受診のためのシステム作りのために、実験台にもなって頂きました。

そんな方のお一人、88歳の男性Aさんのお話です。

5年前からもの忘れ症状が出現。内科疾患で総合病院に入院中に、不安で医療行為を払いのけようとしたことを‘暴力行為’と受け止められ、必要な医療を受けられないまま強制退院となる。「認知症は恥ずかしいこと」と周囲に隠し、ケアマネージャーにも相談できずにいた。(このエピソード、医療者としてはすごく身につまされます…)

3年前に妄想が出現。会話が難しい、自分の子供を認識できない、感情コントロールができない、室内で排泄してしまう。夕方に人が変わったように攻撃的になり包丁を持ち出す。自宅にいながら「家に帰らないと。」と落ち着かなくなる。

夜中に家からいなくなったことを機に家族が在宅介護の限界を感じ、しゃらくに入所。

施設では、行動の前に理由を説明すると安心して拒否なく行える。最近は以前より落ち着いているものの、言葉が理解できない場面が増えており、不安やもどかしさから怒りが見えることがある。日中に傾眠がちなこともある。

1月中旬の初診時、呼べば返事をするものの、傾眠。レビースコア8点、ピックスコア4点でLPC(レビーピック複合)と診断しました。長谷川式は0点です。

前医処方はメマリー10mg,テトラミド(4環系抗うつ薬)10mg,グラマリール1T1×

うつ状態でないのであれば、ゆくゆくテトラミドを漸減することを提案。フェルガード100Mの導入を推奨。歩行改善を目的にグルタチオン点滴も提示。メマリーはとりあえず継続。

その結果…

  • 受診1週間後の報告

『・覚醒している時間が増えている。表情も良い時間が多い。

ご自身の世界へ入り込むことが少なく感じた

・歩行状態に変化はない。

・感情の動きや、言葉が通じると感じる場面があった。

・排泄時に「すっきりした」や「終わりました」等を発したり、食事の際にブリを召し上がるように促すと、「ブリ大根か」としっかりメニューを言われた。

・ご自身に色を選んでいただく際にも、「俺は赤がいい」と赤いものを手で掴む様子がありました。』

  • 受診1ヶ月後の報告

『 今朝夜勤者が記録を書きながら何気なしにため息をついた動作を見て、

「まぁゆっくりやっぺ。」と労わる言葉をかけてくれました。

こちらが、話しやすいようにきっかけを作って、会話を成立させることは最近していましたが、本人が目の前の事実に対し、相手を想って労うという言葉に繋がった事実も驚愕です!』

つい先日診察でお会いしましたが、表情が非常にいいです。以前のような理不尽な怒り方をすることがなくなったと。

嬉しい気持ちで振り返って気がつきましたが、私がしたことは、うつ病でなさそうな方の抗うつ薬を減量中止の指示をしたこと(うつ病でないのに抗うつ薬を飲むと副作用で認知機能が低下します)と、フェルガード100Mを紹介したこと(誠ににいい仕事をしてくれます)くらい。認知症診療のテクニックを駆使したとは…言い難い。むしろ、このことを一つのきっかけとしたグループホーム職員の対応が、今回の改善に輪をかけることになったのでは…と思っているのです。

他のスタッフ方も、別件でお会いした時に

「先生、Aさんの表情見ました?すごくいいでしょう??」「この間なんてね…」

Aさんの変化を口々にそれぞれの経験したエピソードを報告して下さるのです。それはそれは嬉しそうに。

薬の調整を一つのきっかけに、スタッフがAさんを注意深く見守ったり声をかけたりする。それによってAさんの気持ちが穏やかになり、いい状態になる。これまで出来なかったことも出来るようになる。それを見たスタッフが感動してモチベーションがアップし、ますます良いケアをしてくれる。よいループが出来上がっている気がします。

実はAさん、今でも時々は、夜中に「伏せろ!」「来た!シーッ!!」とどこかの世界に迷い込んでしまうことがあるんだそうです。その話をしていた時、スタッフの方が言いました。

「おそらく戦争中の時代に戻っているのかな~って。でもそんな大変な経験をしたら、後々まで引きずってしまう方が普通ですよね。」「でもAさん、優しいんです。伏せろ!って言って私たちのことを守ってくれようとするんですよ。こんな体が大きな私のこと。」

ふくよかな(ごめん笑)女性スタッフが笑いながらこんな風に話してくれたのを聞いて、正直私は診察中にも関わらず涙が出そうになりました。Aさんはこのホームにいられて幸せだな~、Aさんが他でもないこのホームだからこそここまで良くなったんだなと。

医療の部分だけしか見ていなければわからなかった大切なことを、しゃらくのスタッフが教えてくれました。そしてしゃらくのスタッフの方々も、認知症症状を穏やかに受け入れるだけではない積極的な選択肢があることを知ってテンションが上がっていると言って下さっています。うん、介護と医療がタッグを組めばやっぱり最強だ。