医学生時代の私が、糖尿病治療についてどう感じていたか、最近ふと思い出しました。

 とある病院実習で内分泌代謝科を回り始めた頃、「糖尿病は患者さんの数も多くてすごく大切な病気。きちんと治療法をマスターして現場で生かせるようになろう!」と張り切っていた私。しかし、始めて早々に学習は暗礁に乗り上げます。

 患者さん側から見て最も大切な食事について学ぼうと思い、出会ったのがカロリー制限法でした。カロリー制限法は、今の日本では標準的かつメジャーな食事療法で、その名の通り一日に摂取するカロリーを抑えることで血糖を改善しようという方法です。

 皆さん、こう言われて「なるほど。」と納得できますか?当時も今も頭が単純な私は、よく理解できませんでした。糖尿病は、血糖値が高い病気。血糖値が高いのだから、糖分を控えましょうなら分かります。でも、血糖が高いからカロリーを抑えましょうでは、よく分からないのです。私に栄養学の知識が乏しいから血糖とカロリーの関係がうまくつながらないの? 「糖尿病患者さんは太っている人が多いから、カロリーを抑えて痩せれば、糖尿病もよくなるんだ。」という理屈で自分を説得しようと試みました。でも、糖尿病の患者さん全員が太っている訳でもないし…釈然としない感じが残りました。

 まぁあんまり理論を深追いしないでまずは一通りのことをさらおうと気を取り直し、カロリー制限法の実際について読み進めた所で、次の壁にぶちあたります。食品交換表という恐ろしい本の存在です。え~~~料理するのに、本がいるの~~??この時点で、私の頭の警告灯がチカチカ。料理の腕を上げようと気張って料理本を買ったとしても、必ずすぐに本をお蔵入りさせる得意技を持つ私(絶対にこの本の料理を作ってレパートリーを増やそうと決意するのですが)。しかもグラムに単位、分類に交換と、初心者には理論がなかなか複雑に感じました。もちろん計量計も必要です。これ本当にみんな普通に日常生活に取り入れているの?しかも期間限定ではなく一生でしょう、面倒くさくない?というのが正直な感想でした。実際に医師になって現場を見渡すと、食品交換表をベースに食事を作っている患者さんには滅多にお目にかかれないことが判明し、そうだよね~と納得。(大学病院に通う患者層になら、もっと多くいるのかもしれません。)だって自分自身やれと言われても正直難しいです。そんな指導があたりまえに流布していることに違和感を感じます。続けるなら、Simple is bestです。

 そして違和感の極めつけは、ここだけの話。担当の先生が太っている方だったのです。その病院では糖尿病患者さんの教育入院をしていて、担当医が食事や運動について入院患者さんにあれこれ指導をします。私が担当した中年男性の患者さんが、学生である私にで油断してポロッともらした言葉がこれ。

「主治医が太っているのに指導されても、説得力がねぇよな。」

……。グウの音もありません。そんなにいいならおまえがやれよ、ですか。

 今では、この発言は糖尿病問題の本質を突いているように思います。つまり自分の専門で知識が十分にあっても医者自身が日々の生活に落とし込めない治療法を、患者さんに入院までさせて強いている。それがうまくいかなければ、本人の責任?それっておかしくないですか、ということです。当時はそこまで鋭い問題意識を持っていた訳ではありませんが、漠然とした矛盾というか「うまく行っていない医療の現実」を感じました。

 そういう訳で糖尿病診療に残念ながらあまり魅力を感じることが出来ずに臨床医になってしまった私。しかし外来でいやおうなしに接する糖尿病患者さんと年単位で人間関係が構築されるにつけ、何とか目の前のこの方に、合併症で生活の質を下げることなく元気に長生きしてもらいたい…と願う気持ちが強くなります。今までの方法でうまくいかないとすれば、他によい方法はないものか…。そんな時に出会ったのが、糖質制限という食事療法でした。血糖が高いのだから、糖質を取るのを控える。これなら私にもよく分かります。実際の方法もシンプルで、無理なく生活に取り入れやすいと点からも、食事療法の有力な選択肢の一つになる思いました。

 2年前からコウノメソッドを始めた私が、実感をもって学んだことは「既存の医療を疑え」

糖質本

 学生の頃、そして医師になってからも数年前までの私にとっては、教科書、学会やガイドラインで提供されている知識という既存の医療が全てでした。今の世の中で一番よい治療が、現代の医学にすべて反映・集約されている、と信じて疑わなかったのです。それも当然だと思います。(医療関係者でさえそう信じている人がいると思います。)しかし少なくとも、今の私は認知症については全くそうではないことを知っています。学会や‘偉い先生’が提唱する治療が、患者さんを激怒させたり寝たきりに追い込んでいるという信じがたい事実から患者さんを救うために日々戦っているようなものです。この医療の体質が認知症診療のみに留まっているとは到底思えません。

 既存の医療をしていれば、必要な診療を怠ったとして訴えられたり負けることはないと思います。しかし目の前の大切な人を本当に救いたいと思う時、それでは不十分なことも実はあるのです。既存の知識の習得をきちんとした上で、それでも目の前の状況が思わしくないならば、先入 観を捨て「真実はどこにあるのか」を自分の頭で考え、確認し、判断することが必要。一見難しいことにも思えますが、学生時代に糖尿病の男性患者さんがつぶやいてくれたように、患者さんや家族の方が大切なヒントをくれることがしばしばあります。

 そんな訳で、糖質制限についても少しずつ筆を進め、日常臨床にもフィードバックさせていこうと思っています。皆さんも、一緒に自分の頭で考え、自分に必要だと思われる医療を選んで下さい。最後に「ホームページに糖尿病の項目があるのに何にも書いてないから、きちんと書いてよ。」とはっぱをかけてくれた外来の糖尿病患者さんに、感謝します。