消化器系の癌、多発肝転移、脾転移、腹腔内播種の男性。年末に腸閉塞で入院し、絶食と点滴で一応症状は和らいだ。最期の時間は自宅で過ごすことに。腸閉塞の再燃を防ぐには、この先もずっと絶食と点滴。この先も…ずっと…?

「父は家に帰ったら、ぜったい食べたがると思うんです。先生からも、食べたらダメだって言って下さい。」

う~ん…。食べたら再燃する危険が高いという事実は伝えられるけれど、食べたらダメとは…言いたくない。残された時間がごく限られたものであるという前提で、一口も食べ物を口にできず、「あれも食べたい、これも食べたい…」と思いながら一日でも長く生きながらえるのと、ある程度好きな物を食べてまた腸閉塞起こして死期が早まるのと、どっちが幸せか、それは本人にしかわかりません。(ちなみに私だったら後者を選びそう。)

結局、本人に選んでもらうことに。

「経験してわかっているかと思いますが、腸閉塞ってお腹痛いし吐いてつらいです。だから、もしどうしても何か食べたいとしても、なるべく消化がいいものがいいと思いますよ。」

と一応つけ加えて。ご家族は不安そうでしたが。

 家に帰ったSさん。退院直後にほんの少しの絶食・点滴の期間を経て、正月にはこわごわとお粥を。その後少し時間がたち、なんと寿司を食べているという情報を訪問看護師さんから入手。いたずら心から、何にも知らない顔で

「Sさん、消化が悪いものはほどほどにお願いします。たとえば、お寿司とかね。」

と言ったところ、本人家族ともギクッ!とした顔をしたのが正直面白くって。後に種明かしをして本当のところを聞いたら、なんと週1で寿司を食べているんだそうです。むむむ。まぁこんなやりたい放題が許容されるところが在宅療養のよさ。いいかげんな患者にはいいかげんな医者が合っているということで。

しかも診察の度にお腹は張っているわ金属音のような不規則な蠕動音が聴こえるわの割には、緩下剤と浣腸で何とか何とか排便はあり、入院もせずに時は既に春。最近では、

「俺はもうすぐ死ぬんだから、寿司を買ってこい!」

という脅しもすっかり効力を失い、娘さんにも

「死ぬ死ぬって、お父さんいつ死ぬのよ。死ぬ死ぬ詐欺じゃない!」

と返される始末。

 本日の訪問では、それでも少しずつ体力が落ちて、家の裏の桜と菜の花を見に行くのもおっくうだとのこと。帰りにその風景を眺めながら、

「死ぬ死ぬって言いながら全然死なない。そんな風にずっと騙し続けてほしいな。」

と願うのでした。

贅沢ってこういうこと。