平成28年3月、賃貸や建物譲渡の契約などの事務的な手続きを進める一方で、内装や外装についても考える段階にきていました。

一度工事をすれば、その後は大きく変えることができないだけに、後悔がないような内装にしたい!と気合が入ります。内装のイメージを膨らませるために色々と調べた結果、千葉県にある「銀木犀」というサポートつき高齢者住宅の存在を知りました。

「こんな世界があったの…」
初めてホームページの写真を見た時は、本当に驚き、感動したことを昨日のように思い出します。私がこれまで知っている高齢者の住宅という概念を大きくくつがえすようなインパクト。クリニックをこれから建てるというタイミングでここを知った自分は幸運だと興奮しました。時のたつのを忘れてブログを読み、経営者である下河原さんの哲学にも感動。その勢いで数日後には直接コンタクトをとり、銀木犀にお邪魔する機会を頂いたのです。

ホール
木の香りがフワッと漂い、ず~っとここにいたいと思わせる居心地のよい空間。デザインやインテリアというものにあまり縁なくきた私には、「センスがよい空間」と「居心地がよい空間」はどこかで相反するものだと思っていた節があります。でもここでは、それが自然と両立していました。
下河原さんは多忙を極めるにも関わらずお時間を作って下さり、私の不躾な質問にも「そこまで教えて下さっていいの?!」と思うほど率直に答えて下さいました。

下河原さん
いつも優しい下河原さんですが、優しいばかりではありません。どこかから仕入れた一般論を持ち込んで意見を仰いだ時には、切れ味鋭いナイフのようなご意見が返ってきてドキッとしたり。反骨精神あふれるお答えに、下河原さんの開拓者としての本質を見た気がして、ひそかに感動しました。
クリニックは、不特定多数の人が出入りし嘔吐する人もいるから、フローリングは向いていない。
クリニックは、汚れた時に掃除しやすいように塩ビのソファを使うものだ。
一つ一つはこれまでの流れや合理的な理由があることは確かですが、それを踏まえた上で本当に自分はそれでよいのか。既存の常識を疑い、自分の頭で考えること。既存の常識を覆して結果を出してきた下河原さんの言葉には、説得力があります。その後予算的な制約がある中、どこでコストダウンをはかるかという議論の度に当然ながら「床を塩ビにしては…」という提案もなされました。そんな時、下河原さんの「デザインの力を信じます。」という言葉が頭に浮かび、何とか踏ん張ることが出来ました。

内装へのこだわりを貫くことは、当初思っていたよりも大変でした。「あんな風にしたいこんな風にしたい」と夢をふくらませてそれをお伝えした結果、既存のクリニック内装コースが外れて採算に合わないと判断されたのでしょうか。お願いすることが決まっていた建築会社さんから突如として契約を辞退される事態となりました。当時はそれがよくあることなのかそうでないのかもわからなかった私ですが、知人の経営者に聞いても「そんなの聞いたことないって!」と言われ、どうやらこれは異例の事態らしいと察しました。
当初の建築会社にお願いすることができれば、10月か11月頃には開業できそうだったところが、一気に遠回りすることとなってしまいました。(開業時期遅延の事情は、こんなところにあったのです。)じわじわと焦る気持ちもありました。面倒くさい夢など語らず、‘一般的な’クリニック仕様にしてしまえば、工事もすんなり進んだのかな…と正直気弱になることもありました。でも、デザインは力で、デザインは言葉でもあります。
長いお付き合いがある患者さんやご家族は、市立病院のように整った入院設備やCTなどの検査機器がない小さなクリニックを、あえて選んで下さいました。なじみの患者さんが「先生のクリニックについて行くよ」と言って下さったことは、何もかもが初めての世界で右往左往する私にとって、どれだけ心の支えになったかわかりません。だからこそ来て下さる方に、絶対に「新しいクリニックに移ってよかった」と思って頂きたい。医療の質が大切であることは自明ですが、それが全てではありません。待合室にいる時間でも患者さんに笑顔でいてもらいたい!少し大げさかもしれませんが、内装はそんな決意の表れです。