譲れないこだわりと好き嫌いの基準ははっきりしているものの、建築にもインテリアにも素人である私には、どんな素材や品物を選べば、自分の求めている世界を表現できるのかがわかりません。いわば夢と現実を橋渡ししてくれるプロのサポートを求めていました。

十分な準備期間とは言えない中で、はたして引き受けて下さる方はいるのか?いるとすれば一体どこに?インターネットで情報検索をした上で、勝手に白羽の矢を立て、当たって砕けろとご相談したのが、なんと香川県のConnectというお店のインテリアコーディネーターである高木さんでした。6月初旬のことです。遠方からWeb上での唐突なお願いに対し、これまでこれほど遠方からの依頼をお受けした経験がないにも関わらず、「勇気を出してお願いし て下さったのでしょうから、出来る限りの協力をさせて頂きます。」とお引き受けして下さいました。

高木さんから頂いた最初のプランでは、カウンターデスクに高さのあるスツールが並んでいました。とてもセンスがよい物ではあるのですが…。

「うちの患者さん、このスツールに座ろうとしたら多分転倒します。」

「高齢の方の割合が高いんですね。付き添いの方が座るということはないですか?」

「待合室はいつもいっぱいになるので、付き添いの方は座らないで立っていることもよくあるんです。」

このような感じで当院の実情をお伝えしながら調整をしていきました。それ以外にもご提案いただいた案を採用できなかったのは、ひとえにこちらの懐事情に寄るものです。ご提案頂いた予算の3分の1ほどしか内装にあてられないとお伝えするのは、さすがに勇気がいりました。「そんな予算しかないくせにインテリアコーディネートを頼んできたのか!」とあきれられることを覚悟で内情をお伝えしました。「大丈夫。これからですよ。」という前向きなお答えが返ってきた時には、高木さんが仏に見えました。この方も優しいばかりではありません。家具や暮らしというものへの考え方に一本の筋が通っており、もはや哲学と言っていいようにさえ思いました。その哲学からふらりと逸れた方向に行ってしまいそうになった私(予算がないからレプリカを・・・という考えがよぎった時など)をやんわりとたしなめて下さる厳しさも見せて下さいました。心から感謝しています。

高木さん
認知症の症状が進行し、言語での理解が難しくなっても、五感や感情は残ると言われています。特に嗅覚は重要。だから待合室は、安らぎを感じられるように木の香りがあふれる空間にこだわりました。パーキンソン症状などで歩行障害がある方が、靴を履き替えずにそのまま入れるように土足仕様にしようと決めたため、土足の重歩行に耐えうるスカンジナビアンフローリングを採用しています。設計士さん、建築業者さんには「土足でフローリングって、本当に大丈夫なんですか?」と繰り返し聞かれました。その建築業者さんが、実際にフローリングが来て施行する段階で「こりゃ~いい木を使ってるわ。」と言って下さったのが、自分のことを褒められたように嬉しかったのを覚えています。
壁も、待合室だけは塗り壁です。香川から高木さんが見に来て下さった時に、建築のベア&ジェイの職人さんが丁寧に仕事をして下さっていると太鼓判を押して下さいました。(塗り壁は手間がかかるので面倒くさがる業者さんもいるようです)日当たりのよい待合室には、日中塗り壁に柔らかい陰影を落としてとても優しい雰囲気を醸し出してくれます。

なじみの患者さんが初めてクリニックに来てくれた時に「先生、綺麗なクリニックができたね~。」と喜んでくれる笑顔を見て、これまでの努力が報われた気がして本当に嬉しく思いました。そんな風に喜んで下さる方には、ちょっと冗談ぽく「〇〇さんのために作ったんですよ~。」と返していますが、これは100%本音です。私は、まったく知らない沢山の患者さんを集めようとこのクリニックを作ったのではありません。もしそうだとすれば、こんな大変な労力は注げませんでした。つながりがあって大好きな患者さんやご家族の顔が頭に浮かんでいたからこそ頑張れたのです。

「こんなクリニックだったら、私また来るからね~。」

通院が途絶えがちだった患者さんがこう言ってくれた時は「やった!」と思いました。