夏から一気に冬に突入するような寒さが続きますね。

昨年の秋から通院されている60歳台後半の女性。夏頃から、夫に愛人がいるという妄想が出現。次第に毎日のように夫と長女・次女に暴言を吐くようになりました。夫の仕事関係の女性との関係を疑い、数十回も電話をかけるようになります。お金に対しての執着も強くなったようです。

10月に当院もの忘れ外来を初診。長谷川式は25点、遅延再生は6/6,  時計描画は問題なくできます。頭部CTでは、脳全体での萎縮はあまり目立たないが、前頭葉のみやや萎縮あり。初回の相談でかなりエネルギーが強いとのことでコントミン(12.5)1T2×朝夕で処方しましたが、1週間後に長女から電話あり。開始後数日は少し穏やかになったが、ここ数日また興奮が強いとのことで、1.5T3×に増量するよう指示。増量後徐々に興奮が落ち着きました。

落ち着いたとは言ってもそれなりの変動はあり、敷地内に住む娘さんが、薬を上手に調節されています。コントミン(0.5-0-0.5錠)は毎日変わらないのですが、朝にウィンタミン(コントミンと同成分で粉末)も一緒に飲んでおり、12mg飲むか18mg飲むかを、その時の気性の激しさで使い分けているのです。これにはかかりつけ薬局の薬剤師さんもしっかりと協力して下さり、12mgも18mgも同じカプセルに詰めてくれているので、娘さんはどちらかわかって配薬していますが、飲んでいる本人はどちらが出されているのかわからないのだとか。(柔軟に対応して下さる薬剤師さん、すごいです。)

カプセル

最近の外来受診では、ご本人も「前よりイライラしなくなった」と穏やかで、薬の調整をすっかりマスターした娘さんも涼しい顔。ただ外来での本人の話し方がやや呂律が回りにくいのが気になり、少し過鎮静気味かな…と思っています。いったん穏やかさを取り戻したこの段階から、いかに穏やかさを保ったまま抑制薬を減らせるかが課題です。

話を戻しますが、この方は果たして認知症なのでしょうか?当時の私は前頭葉萎縮と陽性症状の強さを根拠としてFTLD(前頭側頭型変性症)と診断し治療を開始しました。前頭側頭型変性症は、‘行動障害型認知症’ と言われ、長谷川式認知症スケールが高得点であることもあるため、長谷川式の点数が高いことは認知症を否定する根拠にはならないと言われていますが。最近精神科領域に広げて勉強するほど、境界性人格障害の「妄想性人格障害(嫉妬型)パラノイア」なのではないかとも思うようになりました。

妄想性人格障害と統合失調症との違いは、統合失調症が社会機能が全般的に低下するのに対して、妄想性人格障害は妄想があること以外はほぼ正常で、日常生活を送れる点。そのため医療機関を受診せずに生涯を終えることも少なくないとのこと。ただ妄想による周囲への影響が大きい場合には、やはり抗精神病薬による治療が必要とします。本人に病識がないため、まず本人が受診を拒むことが多く治療が難航することが多いとの記載がありました。

ただ最初から妄想性人格障害であると診断したとして、精神科受診にうまくつなげられたかどうかと考えると…。本人に病識がない場合には、やはり近所のクリニックで治療を開始できるということはメリットだと感じざるを得ません。