80歳台後半の男性。1年前から症状が出始めました。

・運転中に行き先がわからなくなる。エンジンのかけ方がわからない、車が壊れていると言う。

・時々ボーっとしたり、怒りっぽくなったり、料理に醤油を沢山かけるように。デイサービスで怒りだし、職員をこづいてしまったことがある。

・妻がいないと「どこに行った?」と探し回る。

・夜間眠れずに廊下をウロウロする。

H29年秋、近隣のクリニックを受診。画像検査でアルツハイマー型と診断される。

「薬だけのつきあいですから。」(え~~~~!!!)

こんな医師の一言に家族が疑問を持ち、勧められたアリセプト内服を断る。(賢明すぎる選択。)

●H29年6月 もの忘れ外来を受診

長谷川式 3点(桜・猫・電車の複唱のみ可能)失語あり(利き手の意味がわからない)

何を聞いても、最初は笑うだけ。後半は「わかんね!」「こんなこと聞いて!」と怒り出し、最終的には部屋を出て行ってしまう。野菜の名前までで打ち切りとなる。

CT) 前頭側頭葉の著名な萎縮(OKサイン)萎縮の左右差あ

左右差 お疲れ様    お疲れさま…と言いたくなります。

ピックスコア11点(不機嫌・失語・FTLD・7点以下・トラブル・甘いもの好き・スイッチ易怒・萎縮の左右差・強い前頭葉萎縮)

診断は前頭側頭型変性症(ピック病)陽性症状が強いので、まずは燃え盛るエネルギーの鎮火を。ウィンタミン(6mg)(1-1-1包)

●治療開始2週間後

本人が「まあまあってとこかな。」娘さんからは「あまり怒らなくなった。デイサービスでもソワソワと出口を探すことはあるけれど、うまくなだめれば何とか気をそらすことができる」この日は本人は上機嫌で、パンパン!と手拍子をして笑顔を見せる。家庭天秤法でウィンタミンを調節できるように、多めにウィンタミンを渡す。

●治療開始2ヶ月後

デイサービスでもだいぶ落ち着いてきた。ウィンタミンは(1-2-1包)24mg/日で飲んでいる。フェルガードも飲んでいる。診察室では「ん~ん~ん~」と唸る。よく笑い、人懐こい。非常に穏やか。カルテに記載「状態は非常に落ち着いており、リスクをおかしてリバスタッチパッチを追加するメリットに乏しいか。」

治療開始 6ヶ月後

デイサービスで皆さんのところを回って声をかけている。内科のかかりつけを受診した際には、自分から名前を言って驚かれていた。手背に発赤あり。皮膚科を受診したが「乾燥から来ているのでしょう」と言われたとのこと。ウィンタミンによる薬疹(アレルギー)でないかが気になる。

治療開始8ヶ月後

最近昼頃に少し怒りっぽくなることがある。手背の発赤は相変わらずで、やはり薬疹が否定できないと考える。怒りっぽさがあることもあって、抑制薬をウィンタミン24mg/day からセロクエル(25mg) (0.5-0.5-0.5錠)に変更する。怒りがうまく鎮火できなかった時に備えて、セルシンも渡しておく。

→10日後に再診 薬を変えて間もなくから、トロッとしている。これまでは昼寝はなかったが、最近は昼寝をしていると。セロクエルによる過鎮静と判断し、夕方の0.5錠のみを残して朝昼のセロクエルは中止としてみる。

●治療開始9ヶ月後

夕方のセロクエル0.5錠と以前からのレンドルミンのみで、落ち着いている。手の赤身もだいぶ落ち着いてきた。(やっぱり薬疹だったのか…)夕のセロクエルがあるのとないのではどう違うか、余裕がある時に家族に試してもらうようお願いした。

…以上が、今にいたるまでの経過です。ご家族の話では、元々国鉄に長いことお勤めで、真面目で面倒見がよい性格。誇りに思っているのは「若い人の面倒を見てきたこと」素敵ですよね。デイサービスで周りの人に声をかけている、というのは、そんな若かりし日の姿そのものなんだ…とつながりました。抑制薬を使うのは非人間的!と言う方に、このケースを知って頂きたい。荒れ狂う前頭葉の嵐を放置するのと、ほんの少し抑制薬を使って本来のご本人の優しさを引き出すのと、どちらが人間的かは言うまでもありません。

薬の効き過ぎで傾眠となった時にもすかさず来院して下さったご家族の熱意には、ただただ頭が下がります。ただ、この方はお隣り福島県から来て下さっているのです。なんと片道2時間かかるのです。不安な時、本人が調子が悪い時に2時間の運転がどれほど大きな負担になるか…そう考えると、できれば町内、せめて県内に実践医がいてくれたらどれほどいいだろうと思わずにはいられません。何とか仲間を作るべく、ただいま私はあの手この手の作戦を練っています。