クリニックを開院してから現在にいたる一年間は、週1回前勤務先である市立病院で当直を行ってきました。

 市立病院に行くのは、気心が知れたスタッフに会えて純粋に嬉しい私。でも、それ以外にも大きなメリットが。それは日中に自分のクリニックから紹介して入院させて頂いた患者さんの‘その後’ を直接確認できること。紹介した自分の診断や入院適応が正しかったのか、経過はどうで、いつ頃自宅に帰れそうなのか。忘れた頃に紹介状の書面で知るよりも、本人や家族と直接話し、リアルタイムでカルテを覗く方がよほど安心。状況もよくわかります。ですから当直に入ると、まずはナースステーションに顔を出し、自分と関わりががある患者さんがいないかな~と入院患者さんのリストを眺めるのが恒例です。

 先日そんな風にして眺めた際に、一人の女性の名前を見つけました。80歳代女性、呼吸器疾患をお持ちのAさんです。この方、現在は私のかかりつけではありません。クリニック開院から数か月がたった頃に、発作で市立病院に紹介入院となり、退院と同時に市立病院のかかりつけに戻ったのです。私はそれを、紹介状のお返事で知りました。戻った理由は「娘さんの希望で」。心配性なところもある娘さんには、クリニックが開いていない夜間や週末にお母さんの呼吸状態が悪化するかもしれないという状態が、精神的に大きな負担だったのだろうと申し訳なく思いました。長いお付き合いがあった方で少し寂しい気持ちはありますが、仕方のないことです。

Aさんの名前を入院リストに見つけた私は、さっそく病室に伺いました。懐かしくて、純粋にお会いしたかったのです。Aさんは非常に驚かれ、そして「その節は大変申し訳ありません!!」と平身低頭で謝られたため、逆にこちらが驚いてしまいました。

 前回の入院にあたり、夜間に娘さんが入院できないか電話で相談をしたけれど既にかかりつけではないから入院対応は難しいと言われたこと、娘さんがお母さんのことでよくよく気をもんでいたことを話して下さいました。退院後の方針をめぐって、万が一の入院に備えて市立病院にお世話になっていた方が安心という娘さんと、クリニックに引き続きかかりたいご本人の間で大喧嘩をしたとも。Aさんは「あんた、町で先生に会ったら何て申し開きをするのよ!」と娘さんに詰め寄った?と聞いて、重ね重ね申し訳ない気持ちになりました。

 お年が上の方は義理がたく、他の病院に移ることを裏切るようなイメージで後ろめたく思われる方が多いのは事実です。病状によってその時必要な医療機関の規模や特徴は異なるのだから、かかる病院が変わることで医療者に後ろめたさを感じる必要は全くない、それが元で親子で喧嘩をする必要もないということを、しっかりお伝えしました。最後は「よくなって退院したら、クリニックに遊びに行くわ!」とAさんのお顔に満面の笑顔を見ることができました。数か月間Aさんの中でわだかまりになっていたのかもしれないと思うと(考えすぎかもしれませんが)この日この場所で再会できた幸運に感謝です。私も一区切りの挨拶ができて、すっきりと霧が晴れた気持ちになりました。

 Aさんとのことはよい着地点に至ったとはいえ、やはり私のような町医者とそこに通う患者さんにとって、夜間調子が思わしくない時に直接入院に対応してくれるバックベッドがあればな…というのは正直な希望です。県立中央病院は「断らない救急」を掲げて救急外来に力を尽くして下さっており、その姿勢には心から感謝をしています。しかし脆弱な高齢者にとっては、医療機関の性質上少しハードルが高いことは少なくありません。中央病院に入院するほどの積極的な検査や加療は必要ないけれど、少し補液や抗生剤点滴をして経過を見たり…という‘ほどよいポジションの中小病院’ が、オープンベッドとして直接門戸を開いて下さると、よりスムーズなのですが。基礎疾患が全くわからない方を現場で引き受ける負担は大きいため、各医療機関の診療情報をタブレットで閲覧できれ理想的です。もちろん町医者として、入院機関に丸投げしてすべて終わりという気持ちはなく、1泊目の対応を主治医として担当したり、当直要員としてチーム医療の一員に加わるなどの相応の責任は担う気持ちではいます。

自分なりにやれることを、一歩一歩。