3月25日、品川での第4回認知症治療研究会に出席し、沢山の知識を頂いて帰ってきました。行く前から外来で患者さんご家族に、

「かならず新しい知識を持って帰ってきますからね!」

と約束していたので、一つでも実践的な知識を…と必死です。期待以上の内容にせっせと書き込みをした会誌を眺めながら、さぁどこから診察に落とし込めるかな、と考えていたら。なんと向こうからやってきたのです。

夫の経営する専門的な技術の事務所を手伝っていた60歳台半ばの女性です。1年前から急に元気がなく、しゃべらなくなりました。同じ服を着るようになり、仕事上のミスが増え、まとまらなくなったようです。火の不始末をした上に指摘した夫に対し平然と「保険に入っているから(大丈夫)」と答えたそうです。カードでお金を引き出し、そのお金を置いてきたこともあるとか。

昨年の10月, 12月に交通事故を起こしています。怒りっぽくもなっており、頑固で夫の話を聞かないとのこと。しっかりしている時と、ボーっとしている時とがあるとのことです。

1回目の診察は、実は研究会に出席する直前のことでした。夫が自分の診察に付き添って…と頼んで来院してもらい、診察室で「実は診察してもらいたいのは妻で…。」と切り出されるパターンでした。後に一緒に入ってもらいましたが、アパシー(呆然とした)表情。奥様も一緒に診察をされていきますか?とさりげなく声をかけると、硬い表情で首を横に振るのです。この状況では保険診療の薬を処方するのは難しいという状況で、夫とこそっと相談してフェルガード100Mのサプリメントからスタートする方針で帰宅。むざむざと帰してしまった私。入室拒否や怒りっぽいというキーワードから、すっかりピック病(前頭側頭葉変性症)ではないかと思っていました。

そして研究会参加後まもなくの外来で、私は自分のつめの甘さを激しく後悔することとなりました。彼女は3回目の交通事故を起こしてしまい、外傷性くも膜下出血、肋骨骨折を負ったのです。脳神経外科に入院し一度は退院したものの、間もなく夜間にけいれんを起こし(口唇が真っ青になり泡を吹いていたと記載)再度脳神経外科を受診。イーケプラ(500mg)が処方されました。脳外科の先生からの紹介状には「3月×日、運転中に居眠り(?)のため道路の溝に転落し受傷しました。」と記載してありました。

この方は、以前から側頭葉てんかんの発作を繰り返していたのではないか。河野先生の講義を受けた今では、そのように考えます。

河野先生は、認知症に関わる医師が絶対におさえておかないといけない2つの病態を挙げており、その一つが側頭葉てんかんだったのです。(ちなみにもう一つは発達障害です。)一般的にてんかんと言うと関節をガクガクさせたり倒れるというイメージがありますが、側頭葉てんかんは違います。目を開けたままボーっとする、口をモグモグさせる(自動症)という、いたって地味な症状。近くにいる家族でさえも気がつかず見逃されやすい症状が特徴です。私自身も不勉強で、側頭葉てんかん=自動症という知識はかろうじてあったものの、急激な記憶力低下や急に怒るなどの陽性症状の存在は知りませんでした。キーワードは、「意識消失・交通事故・口もぐもぐ」です。なんと発作を起こした状態で40kmも走り続けたケースなどにも言及されており、ゾッとしました。河野先生のすごいところは上記のキーワードでひっかかった方が「脳波で異常なし」と言われても「無視すべし。」と断言されているところです。後の懇親会で「そんな都合よく脳波なんか出んよ~。」とおっしゃっていました。

当然ながら2回目の診察では運転は絶対に禁止とお話ししたのですが、すごいことに初回にはあれほど硬い表情で診察を拒んでいた女性が、2回目には当然のように診察室に入り、神妙に椅子に座って私の話を聞いているのです!大きな事故を起こしてすっかり気が弱くなってしまった?のもあるかもしれませんが、事故はその前にも2回やっています。イーケプラが開始されているから?1ヶ月前から飲んでいるフェルガードがいい仕事をしている?いずれにせよ、驚くべき変貌ぶりでした。次回頭部CT画像を持参してもらうこととなっているため、海馬の石灰化がないか、目を皿のようにして見ることにします。

先日免許センターから診断書提出された認知症患者さんのご家族が、受診医療機関として当院を紹介されたと言って来院されました。茨城県の交通安全のために、責任を持って学びを深めようと背筋が伸びる思いです。

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